とあるお店が在る。
俺は曰く付きなコレクション兼商品にまるで磁力に引き寄せられるように何度も訪ねてしまう。
そして今日も……
「やあ、いらっしゃい。今日もコレクションを見たいそうだね。存分に見ていってくださいな」
この店は会員制だ。
会員になる条件は一つだけ、いつか商品を買う事。
いつになるかは、客次第だそうだ。
特典は好きな時に品物を閲覧できる。
ここは、そんな店。
禍々しく鈍い光を放つナイフの下に古ぼけた封筒があり足を止めた。
「店主、この封筒はなんですか?」
「ああ、この封筒は……」店主の話が始まった。
封筒の持ち主は60歳の女。女はある一つの目的の為に生きてきた。
それは復讐。
女が20歳の時、ある男に家族を殺された。
信号待ちをしている時に追突され、女以外の3人が死んだ。
相手の男は無傷だった。
男は金持ちだった。
男の親が手を回し裁判になっても無罪に近い判決になった。
女は許せなかった。
怒りと悲しみで狂いそうだった。
そして家族の仇を取る為に計画を練った。
何十年も罪悪感で苛ませ殺してやる……
女は男に近付いた。
男にも罪悪感はある、自分を憐れに思い言う通りにすると考えた。
少しずつ仲を深めた。
そして憎い男は憎い夫になった。
夫の前では、いつも笑っていた。殺意を必死に隠しながら。
夫は頼みもしないのに色々な物をくれた。欲しくはなかった。
何かと記念日を作る夫が鬱陶しかった。
旅行に誘う夫に苛立った。料理を作る夫を殴りたかった。
全てを隠し幸せな振りをした。
女は夫に聞いてみた。
何故そんなに愛してくれるのかと。
夫は幸せにしたいからだと言った。
女は嘲笑った。
ある時、病気になった。
死ぬ訳にはいかなかった。毎日のように見舞い来て励ましてくれる夫は少し邪魔だった。
だが、悪い気分ではなかった。
手術が成功した。
夫の涙を見た時、純粋に嬉しく幸せを感じた。
日々大きくなる幸せに悩んだ。
女は夫を愛するようになった。
だが、殺意が薄まる事はなかった。
自分がどうしたいのか答えが出せぬまま、時が流れ60歳になっていた。
夫にドライブに誘われた。いつか夫を殺そうと計画していた場所に。
ある手紙を鞄に忍ばせ車に乗り込んだ。
愛情と殺意。
どちらが上か答えが出せず女は死ぬつもりだった。
人気のない湖に着いた。
夫に抱き締められナイフを渡された。
殺意が燃え上がった。
夫を刺した。
愛情が込み上げ涙が流れた。
女は泣きながら言った。
愛しているのに許せなかった私を許してと。
夫は許してくれと言い目を閉じた。
女は手紙を夫の手に握らせ湖に飛び込んだ。
手紙には、こんなに愛してくれた貴方を憎んでいた自分を許してと書いてあった。
最後の文は。
来世では私が償う番です……
「それが、この手紙です」
足りなかった部分が補完された気がした。
「さて、断罪と贖罪。目的は果たされたと思いますか?」
どこかいつもと違う店主に違和感を感じつつ店をでた。
コメント
いつもと違うと書いてあるからには店主がその夫ということでしょうか。