むかし海で体験した…ってか見た話。
姫島という所があるんだけど、盆あたりに狐踊りという伝統行事をやってて、それを家族で見に行った。
まあ名前の通り姫島は島で、行くにはどうしてもフェリーに乗っていく必要があった。
しかしそのフェリーというのも(当たり前だが)正直そう大きなものではなくて、移動時間中はテレビくらいしか暇を潰すものがなかった。
それから、その日は狐踊りや屋台を存分堪能して、それから帰ることになった。
だが島外からの人が思いのほか多く、フェリーは時間を超えて何便か出すことになって、俺らがフェリーに乗れたのは10時くらいになってからだった。
しかし上記したように、船内には娯楽がなかったから、暇つぶしとばかりに甲板に出て、真っ暗な海と、船の後ろから出る波を眺めてた。
しばらく眺めてて、多分5分かそこら経ったあたりだと思う。
ふと視界の右側に気になる影を見つけた。
それは小型の漁船だった。
誰かが漁してんのかな? とその時は思ったが、どうも様子がおかしい。
まず異様なほど船がボロボロだった。
塗装は剥げ、錆が船全体を覆い、ネットや綱っぽいものが甲板に無造作に散らばっていた。
二つ目に人の気配が全然しない。漁船の上で動くものが全然ない。
しかも明かりすらついておらず、俺もフェリーの甲板の上にある照明を借りて、ようやく見えるくらいだった。
そして何より不気味なほど静かに、同じ様に並走していたこと。これが完全におかしかった。
確かに船のモーター音はかなり煩かったけど、耳を澄ませば隣を走る漁船の音くらいは聞こえるはず。
けど何も聞こえない。聞こえてくるのはフェリーのモーター音と船後方に広がる波の音だけ。
それだけでも十分不気味なのに、速度も進路もなぞる様にフェリーと同じときた。
糊で張り付けた様にぴったり同じ位置をキープして走っていた。
それらに気付いて怖くなった俺は、飛び込むように船内に戻った。
やがてフェリーは港に近づいた。そこで俺らは車に移動しなきゃいかなかったんだけど、急にあの小船が気になりだして、トイレと言い訳してから急ぎ甲板後方へと移動した。
そこにはもう例の漁船の姿はなく、暗い海が広がるだけだった。
今思えば、あれは俗に言う幽霊船なんだろうか。
お宝目的で乗り込んだ暁には、大量のお魚が手に入るのかもしれない。
コメント
「大量のお魚が手に入る」
舟の上には、収獲は空って設定ですが?
どうして、こういう次の段階での発想が出るのだろう。
その舟の目的は、船頭を求めているのでは?
たとえ大漁の宝を得たとしても、次の船頭が得られるまで、その舟の船頭になってしまうということぐらい気付かないのが地元漁民での欲なのだろうか?
まさにカモになる思考者だから近寄られたということであり、たまたま少年だったから一線を越えなかったというラッキーな生き残り話なだけ。