これは北海道のとある地域で起きた話です。私の地域からは古くからアマンという妖怪の言い伝えがあります。人の形をしており体の大きさは2mはあるそうです。よく祖母からもその話を聞かされていましたが、私はぶっちゃけ信用していませんでした。
厳密にどういう妖怪なのか、何故それが恐ろしいのか。
アマンは普段は一人で夜道を彷徨い歩いているそうで吹雪の中でしか現れません。
一人でいる人間を見つけるとゆらり、と近寄って来ます。そうすると、何か声をかけられ反応するとアマンは大勢の仲間を呼び、攫って行くと言われています。
ある日、私は仕事が急がしく終電ギリギリで何とか地元の駅に帰れたのですが、なにぶん田舎な物で駅前はいつも以上に閑散としており、人気は一切無く雪が降り積もっていました。
自転車で帰ろうにも駐輪場は閉まってしまい、タクシーも無かったので私は仕方なく徒歩で帰る事にしました。
帰り道、私は幾度と無く妙な寒気を感じていました。それは単なる偶然と言い聞かせいましたが、頭の隅でその寒気は駅を出た時から感じていた物と分かっていました。
靴が新雪に沈む音が歩く度に耳に入ります。私はしばらく歩いていてとある異変に気づきました。足音が二重に聞こえたのです。
一歩踏み込むと背後で同じように一歩重なって進んで来ます。怖くなって足を早く動かして私は逃げるように家路を急ぎました。私が歩くのを早めると背後の何かも速度を上げて追って来ます。
怖い、しかし、追って来る何かを確認したい気持ちもありました。偶然、近所では最近、不審者が出ると噂になっており、息子が学校からもらって来る手紙にも似たような事が書いてありました。
私は女性でも格闘技をやっていました。何かされても抗えると思っていました。
意を決して私は振り返ると私の背後には今まで見たこともない大きな人が立っていました。テレビで見る2m越えの人が現実で見ればあんなに威圧的だったとは思いませんでした。
私は固まり、その場から一歩も動けなくなりました。そしてその2m越えの男は何かをささやいて来ました。私は祖母の言葉を思い出し、にわかに信じられませんが、これが例のアマンだと感じました。「え?」と聞き返そうとしましたが、返事をすれば仲間を呼ばれて連れ攫われるという伝説から私は口を紡ぎ、声を押し殺すとアマンはまた何かささやきました。
全身を恐怖で震わせながらしばらく黙って、目を瞑っていると目の前から威圧的な物がいなくなるのが分かりました。
結局、私は声を上げなかったからなのか、何もされる事なく無事に帰る事が出来ました。もしも、祖母の話を聞いていなければ私はどうなっていたか分かりません。
「おれ、いっちば~ん」
アマンがささやいた言葉です。
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