牛の首と名乗る魔物

昔、寂れた山村に父娘が住んでいた。
父が再婚し、義母と義妹も一緒に暮らすようになった。
義母は義妹ばかり可愛がり、家事の全てを娘に押し付けた。

そんなある冬、家族は貧しさに耐えかねた。
義母は
「このままでは冬は越せない、娘を山に捨てるしかない。」
と父にけしかける。
気弱な父は義母に逆らう事が出来ず、
泣く泣く実の娘を山奥の山小屋に置き去りにした。

山は魔物が出ると言い冬には誰も近寄らない。
娘は毎日泣いて暮らしたが
それでも生きる為、罠を仕掛け野兎を捕まえ
雪を掘り木の根を探した。

ある夜、囲炉裏の側で寒さと怖さで震えながら泣いていると
戸口を叩く音がする。
こんな夜中に人が来ようはずが無い
戸を叩くのは魔物に違い無いと娘は怯えた。
しかし、戸口を叩く音は止まない。

それで娘は恐る恐る、戸口を開けた
外は真っ暗で吹雪が吹いているだけ・・・
と思ったら足元に小さな魔物がいた。
全身褐色で頭には角を生やしている。
娘が「何者!」と聞くと
魔物は「俺は牛の首だ。
腹が減って寒い、中に入れろ。」と言う。

娘は怖さよりも
自分と同じ境遇の魔物が可哀そうに思え
小屋の中に入れてやり、
囲炉裏に当たらせ、木の根の汁を分けてやった。

いつの間にか眠ってしまった娘が
目覚めた時には朝になっていた。
魔物はどこにもおらず、
魔物が座っていた囲炉裏の側には
少しばかりの金銀財宝が積まれていたそうだ。

この後、娘は里に降り
財宝を持参金に良い婿を迎え幸せになったと言う。
また、この話を聞いた義母は
義妹を冬の山小屋に行かせたが
我が儘に育った義妹は魔物への世話が出来ず
魔物は怒って小屋を壊してしまったらしい。

ウクライナの昔話だそうだ。

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