宅配便

きのうは暑かったから窓開けて網戸だけ閉めてテレビ見ながらダラダラしてたんだよね。

「佐藤さーん、すいませーん、お届け物でーす」
いつのまにか寝ちゃってたみたいで、宅配便のお兄ちゃんの声で起きてさ。
田舎だから玄関も開けっぱなしなんだよね。
玄関と今の間に掛けてあるのれん越しに、おなじみの黒のパンツとボーダーのポロシャツの胸くらいまでが見えてた。

「ああ、すいません、いま行きますー・・・」
返事をしながら体を起こすと、あることに気付いた。テレビでガキの使いがやっていた。
ガキの使いは22時56分からのはず。もちろんビデオじゃない。
慌てて時間を確認する。掛け時計は23時18分をさしている。

その瞬間、ぞぞぞっと、気温とは違う寒気が背筋を通った。
いくらサービスが充実したといっても夜11時を過ぎてまで宅配便が来るわけがない。
のれん越しに改めて配達人を確認した。
よく見ると、全身シャワーを浴びたかのように水滴がしたたり落ちている。
気のせいか水滴は濁っているようにも見える。
夕立でもあったのか。だけどそれにしては訪問するには失礼なほど汚れている。

「佐藤さーん、すいませーん、お届け物でーす」
さっきとまったく同じトーンで、まったく同じセリフで配達人が呼びかけてくる。
「え、あ、あぁ、あの、ええと、夜も遅いので今日はちょっと・・・」
なんとか断ろうと頭をフル回転させても、いい断りの文句が出てこない。
「佐藤さーん、すいませーん、お届け物でーす」
「佐藤さーん、すいませーん、お届け物でーす佐藤さーんすいませーんお届け物でーす佐藤さーんすいませーんお届け物でーす」

まるで壊れたレコードプレーヤーのように繰り返し呼びかけてくる。
もう確信はしてた。あれは人間じゃない。
しかもそいつは玄関を開けて、すでに家の中にいる

「佐藤さーんすいませーんお届け物でーす佐藤さーんすいませーんお届け物でーすフフッ・・・」
おそらくウチへの届け物だろう袋を玄関の床に置き、靴を脱ぎ、そいつは玄関を上がり部屋に向かってきた。
築20年の傷んだ床をギッ、ギシッ・・・と音を立てながら。

もうダメだ、居間に入ってくる・・・!
「うわー!!!」・・・という声とともに目が冷めた。どうやら夢を見てたらしい。
体じゅう汗だくになっていた。もうぐったり。テレビではガキの使いがやっていた。

その時だった。
「佐藤さーん、すいませーん、お届け物でーす」

コメント

  1. 匿名 より:

    ゾッとした

  2. ナミダ より:

    ザリッとした

  3. 夢鬼 より:

    ガリッとした