妹の笑う声

私が家に帰ると、庭のほうから妹の笑う声が聞こえた。
庭では今年6歳になる柴犬を飼っているので、妹は犬と遊んでいるのだろうと思った。
自室で着替えて庭に面した居間へ行くと、背筋がぞっとした。
ガラス窓が赤いスプレーで全体が汚されていた。

犬小屋の前で、妹がこちらに背を向けて座っている。
今なお笑っている妹の笑い声を改めて聞いているとなにかおかしい。
ガラス窓を開けると生臭いにおいがした。気持ちが悪くなった。
「しおり」と妹の名前を呼び、私は後悔した。
しおりの座る付近は赤いペンキでぐちゃぐちゃだった。
ティッシュや布が赤い血に浸っている。
しおりはまだ気味の悪い笑い声で笑い続けている。
庭へ出るためのサンダルはしおりが履いているようだったので
私は玄関まで回ってサンダルを履き、庭へ走った。
しおりがいた。まだ笑ってる。柴犬のリュウタもいる。
でもリュウタはお腹から上しかいない。それをしおりは抱っこして笑っている。
お腹から下の部分は犬小屋の隣に落ちてた。
私は自分の耳が壊れるくらいに大きな声をあげて叫んだ。

それからのことは覚えてない。
気絶したらしいとお母さんが言ってた。
しおりは今も入院してる。リュウタがあんなふうになった原因は分かっていない。
しおりは笑うことと泣くこと以外出来なくなって、何も話せなくなった。
一週間に一回しおりと会うけど、しおりはもう私の知らないしおりになってしまった。
私のこともお母さんのこともお父さんのことも分からなくなってしまった。
リュウタのことはお母さんも教えてくれないし、私も知りたくないけど
夜になると、庭のほうから寂しそうに鳴くリュウタの声が聞こえてくる。
私は悲しくなっていつも耳を覆う。
そうしたら、私の耳は何も聴こえなくなった。
お母さんとお父さんが泣いているみたいに見えたけど、何も聴こえなかった。

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