空に太陽がある限り

空に太陽がある限りって歌知ってるよな?
スター(笑)にしきののあれ
あれを耳元で歌われた事あるんだわ
五十代くらいのおばさんに
最初は気のいいおばさんだとおもってた。
いわゆる俺、フリーターってやつでさ。
バイト先で知り合ったのよ。
面倒見もよくて、朗らかで気さく。
非の打ち所のない先輩パートさんってのが第一印象。
色々恩があったけど、返す前に新しい(給料の良い)職場みつかって、俺あえなく退職。
ところが新しい職場に慣れた頃。
新しいバイトの人が来て、それがそのおばさんだった。
縁があるなあと思いつつ、前の恩返すぜと熱心にマニュアルよりさらに実践的なことまで熱心に教えたよ。
年いってる割におばさん物覚えよくてさ。
みるみるうちに力つけていったから、嬉しかったなあ。
お返ししてたはずなのに、俺の方が喜んでちゃ、お返しにならんよね。
ところがまた、俺もっといい時給のとこ見つけて、採用試験も受かっちまったんだよね。
そこでまたおばさんとバイバイした。
そのバイトはさ、ホスト。
初月時給二千円スタートのそこは、俺の目的にもあってた。
店のNo3をキープしてるインテリ系の兄貴に気に入ってもらえて、
ヘルプについたりしてるうち、酒に酔っても理性は失わないくらいには仕事にもなれたよ。
その頃におばさんが店に顔を出すようになった。
最初は我が目を疑ったよ。
化粧っけのない、財布だって軽い身分で、こんなとこにくるんだ。
いくら俺の入ったクラブってのがリーズナブルとはいえ、一応名店入りしてるとこ。
一時間いて十分間俺と話せたとしても、一万円程度の出費は毎回かさむ。
月四回もきてたらおばさんの生計が成り立たないってのは他人の俺からでもわかる。

そして熱唱事件がおこった。

ある夜いつもよりおばさんはずっと長くいた、そして空に太陽がある限りをうたった。
俺はおばさんに肩を抱かれ、べったりって状態だった。正直、心底気持ち悪かった。
離せよってついいっちゃったよ、そうしたら離さないっていうんだ。
「このストーカーッ!」
って思わず叫んだ、店内が騒然となった。
振り払って席を立つと、おばさんがじっと俺を見上げて穏やかな表情してた。
兄貴が俺の横に立ったけど、俺を助けようというよりはおばさんの言い分を聞きに来た感じだった。
「あなたには関係ないもんね。でも最初のバイトで知り合った時、別居中だった夫と子供が事故で死んだのよ。
おばさんその日、君がインフルエンザで寝込んでて、代理で出勤してたから、死に目にもあえなかった。」
恨みか、と思った。
「愚痴をいってるわけじゃないのよ。
ただ、おばさん生き甲斐をなくしちゃって、そんな時、君がなんだか、子供のように思えたの。」
言葉が出なかった。
「どうして、こんな所きちゃったの?
おばさん、ここにくるのにも大変だったのよ?一種の詐欺師じゃない。
おばさんは了解の上だけど、好きって君がいう言葉本気にしちゃってる子結構いるんじゃない?」
一番言われたくない事を言われてしまった。
うろたえた俺は下げられた後、店外でおばさんと会った。
おばさんがいうには、二番目の再会の時は、まるで息子が昇進したような気分になって。
ついその晴れ姿を間近で見たいということで、同じ職場の募集に応募したらしい。
そこで、俺が新しい稼げる職場に移ると伝えた時、そういえば手を叩いて喜んでた。
でも、その内容がホストだったと聞いて、おばさんは俺に注意しにきたんだろう。
実際に金を湯水の如く使わせられる一人に徹して、俺にこれが悪い事だと身を持って教えてくれたんだろう。
俺は、親からついだ財産の中に思いも寄らない借金があって。
信用情報機関に問い合わせたら簡単にわかる類のもので、
大企業や安定した企業からは内定がもらえなかったことを説明した。
「だからってダメなのよ。
人を騙すような商売に手を染めちゃ。」

あれから二年、おばさんは死んでしまった。
彼女は自分の遺産の名義を俺にしてくれていた。
俺の借金はそれで半分ほどになった。
おばさんにいわれてホストをやめてから、正直利子分+すずめの涙ほどでしか返済ができてなかったが、
ようやく元金がきちんと減っていくようになった。
冥界にも太陽はあるのだろうか、俺はおばさんが死んでからも分不相応な愛情を注がれて今希望を見ている。

自分なりにこの体験に一言感想を添えるなら。
切迫した事情があったといえ、口先三寸で人を食い物にする商売に手を染めた事が恐ろしい。
何より許し難いのは、こんなにも想われていて、その相手を公衆の面前でストーカー呼ばわりしてしまったことだ。
そして歯痒いのは、一度窶した身はなかなか再起が難しく。
俺はホストをこそやめたものの、アニキが独立してつくった店で黒服をやっている。

コメント

  1. 匿名 より:

    更生せい。なんちゃって(;_;)

  2. まさ より:

    これはどっちかというと感動する話ダネ

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