ボタン

ある日、私のもとに黒服を着た男がやってきた。きっちりとしたスーツに白いネクタイがよく似合う顔つきだ

男「あなたはほんとに運がいい」

私「あの・・・どういうことですか?」

男「あなたは90億分の1に選ばれました。90億とは我々が把握している人間の数です。あなたは本当に運がいい」

私は意味がよくわからず、詳しく聞きかえそうと思ったがやめておいた。
『この人は本気だ』私は直感でそう感じ、同時に冷や汗をかいた。
男には人間であって人間でないような不自然な冷たさがあり、この男の言うことは全て本当だと思えるなにかがあった。

男「では、ここにボタンがあります。このボタンを押すことにより、あなたは日本円で約1億円の現金を手に入れることになります」

私「でも、」

男「はい、そうです。当然ボタンを押すことによってことがおこります」

私はボタンを押すと決めた訳でもないのに、自分に危機迫っているのを感じ、恐怖し同時に身体から汗が吹き出た
しかし男は意外なことを口にする

男「あなたには今回、このボタンによって危害が加わることはありません」

私「ではなにがおこるんです?」
間髪を入れずに返す

男「あなたのまったく知らないどこかの誰かが死にます」

私「そんなことっ・」

男「猶予は一日。ゆっくり考えて下さい。では」

男は帰っていった。不思議と追いかける気にもならなかった。
一日の間、押すか押さないか考えたのは初めのうちだけで、押すと決めた訳ではないが残りの時間はお金を何に使うか考えていた。自分が不甲斐ない。

そうこうしてるうちに昨日とまったく同じ時間に男はやってきた

男「決められましたか?」

私「はい。」

カチッ

私は前にボタンを差し出し押して見せた

男「ありがとうございます。ではこちらが現金になります。」

目の前にはお金の束が積み上げられた。思ったより少なく見え、こんなお金のために人を殺したのかと思うとお金への興奮よりも罪悪感の方が滲みでた

男「では私はこれで」

私「あの」
私は最後に何気なく質問をしてみた

私「これからどちらへ?」

すると男は初めて私に笑みをみせ
静かにこう言った
男「次のあなたのまったく知らないどこかの誰かのところですよ」

私は絶望した

コメント

  1. 匿名 より:

    これ、映画の話まんまじゃん。
    運命のスイッチ